パンデミックの社会課題解決に向けた学際研究

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パンデミックの社会課題解決に向けた学際研究

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TUPReP 背景と目的

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年末までに出現したと考えられている。それから4年近くが経過するがいまだにCOVID-19の流行は継続している。これまで世界保健機関(WHO)に報告されたCOVID-19による死亡者数は700万人近くになるが、実際の死亡者数はその3倍以上になるとする推計値もある。

 人類はその歴史の中で数多くの感染症の脅威にさらされてきている。人類の歴史は感染症との共存の歴史と言っても過言ではない。しかし、近代においては感染症の被害の程度は大きな地域的偏在が認められている。例えば、「三大感染症」と呼ばれる結核・マラリア・HIV/AIDSによる死亡者のほとんどはアジア・アフリカなどの低・中開発国において発生している。21世紀に入り相次いで発生してきている人類にとって新しい感染症を意味する新興感染症の流行も主にアジアやアフリカで起きてきていた。

 しかしCOVID-19のパンデミックはまったく違うパターンをとってきており、これまで感染症を克服したと考えられていた欧米先進国において非常に多くの被害が起きてきている。COVID-19による死亡者数は国によって集計の仕方が異なり、単純には比較できないが、2023年5月初旬の時点で、日本のCOVID-19の死亡者が約7.5万人だったのに対し、アメリカでは110万人以上、英国でも22万人以上の死亡が報告されている。人口あたりの死亡者数ではアメリカ・英国の死亡者数は日本のほぼ5.5倍になることになる。単純に計算すると、アメリカ・英国程度の人口あたりの死亡者数が日本で発生したと仮定した場合、40万人以上が死亡していたことになる。シンガポール・韓国などのアジア諸国やニュージーランドなども欧米先進国と比べると人口あたりの死亡者数は少なかった。

 このような欧米先進国とアジアなどとのCOVID-19の被害の違いにつてはさまざまな議論がなされてきているが、その違いが何に起因するのかは正確にはわかっていない。おそらく、その背景には単に医療アクセスの問題や近年の新興感染症の流行の経験というようなことだけではなく、文化的背景や長い感染症との共生の歴史の中で培われてきた疾病観・死生観など違いも関連していた可能性がある。現在、COVID-19後のグローバルなパンデミック対策の枠組みが議論されている。しかし、COVID-19で大きな被害を受けた欧米先進国が、COVID-19への対応を十分に総括することなく、そのような議論を主導していることは問題であると考えられる。

 東北大学は2020年秋に「感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点(SDGS-ID)」を設置し、感染症に関する学際的な研究を進めてきた。さらに2023年1月からは、「コロナとこれからの社会を広く深く考える会」を立ち上げ、特に医学など自然科学の研究者と人文・社会学の研究者が集まって、上記のようなアジアと欧米諸国の対応の違いの背景や今後のグローバルヘルスガバナンスの問題などを議論してきた。

 今回、東北大学が進める総合知を行動に繋げることにより持続可能な社会を目指すことを目標としてSOKAP(Sustainability Open-Knowledge-Action Program)というイニシアティブが開始された。その一環として、始まった研究プログラムであるSOKAP-Connectに、SDGS-IDを基盤とした「パンデミックの社会課題解決に向けた学際研究(SOKAP-TUPReP)(Tohoku University Interdisciplinary Collaboration for Global Preparedness and Local Resilience to Next Pandemics)」が採択された。このプロジェクトでは、①歴史的背景、②感染症の文化的背景(疾病観・死生観を含む)、③社会的格差、④グローバルヘルスガバナンスなどの問題について自然科学の研究者と人文・社会学の研究者が協力して、COVID-19から明らかになったさまざまな社会的課題についてさらに議論を深め、国際的な提言としてまとめていくことを目的としている。

概要図(Vision)
研究体制(Teams and Members)

プロジェクト代表

医学系研究科
教授 押谷 仁

コーディネータ

医学系研究科
客員教授 坪野吉孝

① 歴史的背景

歴史的観点から日本と欧米の感染症に対する考え方について違いを整理し、そのような歴史的視点を提言に反映させる。

② 文化的背景

日本の死生観・疾病観などの文化的背景がCOVID-19の対応にどのような影響を与えたかを解析し、その中からグローバルに活用できる要素を抽出し、提言に反映させる。

③ 社会的格差

COVID-19で明らかになった社会的格差がパンデミックの被害に及ぼした影響を解析し、社会的弱者をどう守るのかという視点から提言をまとめる。

④ グローバルヘルスガバナンス

グローバルヘルスガバナンスの課題を日本の視点から整理し、欧米主導で行われているパンデミック対策の枠組みの問題点を明らかにすることで、将来のパンデミックに対するグローバルなシステムに関する提言をまとめる。